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小規模宅地等の特例をわかりやすく解説!要件の種類、手続きの進め方、必要書類も紹介
2025/10/23 相続コラム

相続が発生すると、思いがけず大きな税負担に直面することがあります。その中で注目されるのが「小規模宅地等の特例」。相続する宅地の評価額を大きく減額できる制度で、適切に活用すれば住まいや事業用の土地を守り、負担を軽減できます。本記事ではその概要や適用条件、必要書類、申請の流れをわかりやすく整理しました。
小規模宅地等の特例とは
小規模宅地等の特例は、相続の際に対象となる宅地の相続税評価額を最大80%減額できる制度です。居住用・事業用・貸付事業用といった用途ごとに上限面積と減額率が定められており、要件を満たせば大きな節税効果が見込めます。制度の趣旨は、自宅や事業の土地を相続税のために手放さざるを得ない事態を防ぐことにあります。制度の区分・上限面積・減額率の原則は次のとおりです(後述で詳説)。
- 特定居住用宅地等:330㎡まで 80%減額
- 特定事業用宅地等:400㎡まで 80%減額
- 特定同族会社事業用宅地等:400㎡まで 80%減額
- 貸付事業用宅地等:200㎡まで 50%減額
この特例は相続税の申告が前提条件です。仮に特例の適用で税額が0円になる場合でも、申告をしなければ特例は適用されません。まずはご自身のケースがどの区分に当たるかを確認し、申告期限(死亡を知った日の翌日から10か月以内)に間に合うよう計画的に準備を進めることが大切です。
小規模宅地等の特例が適用される土地の種類
小規模宅地等の特例が使える宅地にはいくつかの種類があり、それぞれに適用できる面積の上限や減額率、必要な条件が定められています。大きく分けると「居住用」「事業用」「同族会社事業用」「貸付事業用」の4つで、それぞれに特徴や注意点があります。ここからは代表的な区分を順に見ていきましょう。
①特定居住用宅地等(自宅の土地)
被相続人が相続開始直前に居住していた自宅の敷地(または生計一親族の居住の用に供されていた敷地)が対象で、330㎡まで80%減額されます。別荘など実際に居住に使っていない土地は対象外です。二世帯住宅でも区分登記の有無や生活実態で可否が分かれるため、事前確認が重要です。
高齢者施設入所中の自宅敷地
被相続人が要介護等の認定を受け施設入所していた場合でも、入所後に自宅を賃貸に出していない等の条件を満たせば適用できます。判定には戸籍の附票や介護保険関連書類・入居契約書などの提出が求められます。
②特定事業用宅地等(事業の土地)
被相続人や生計一親族の事業用に供されていた宅地が対象です。400㎡まで80%減額されます。相続開始の3年以上前から事業継続していること、相続人が申告期限までその事業を継続し宅地を保有していることが基本要件です。
③特定同族会社事業用宅地等(同族会社の事業用地)
被相続人と親族等で過半数超を保有する法人が事業に使う土地が対象です。400㎡まで80%減額。持株要件・相続人の役員要件、申告期限までの事業継続と保有がポイントです。
④貸付事業用宅地等(賃貸アパート・駐車場等)
賃貸アパートや月極駐車場・駐輪場の敷地など貸付事業の土地が対象です。200㎡まで50%減額。相続開始3年以上前から貸付事業が行われ、相続人が申告期限まで事業継続・保有していることが必要です。
併用(ミックス)適用の考え方
居住用+事業用(同族会社事業用を含む)は、それぞれの限度面積を最大限活用できます。一方、貸付事業用を含む併用では、面積調整式により合算限度が圧縮されるため要注意です。代表的な基準式は以下(A=居住、B=事業/同族会社事業、C=貸付):A×200/330 + B×200/400 + C ≦ 200㎡。実務では最も評価が下がる組み合わせを試算して配分を決めます。
小規模宅地等の特例を受けられる相続人の種類
小規模宅地等の特例は、どんな相続人でも自由に使えるわけではなく、対象となる人が限られています。 特に居住用宅地では、被相続人との関係性や同居の有無、そして相続後の居住・保有の状況が大きく影響します。大きく分けると「配偶者」「同居していた親族」「家なき子(別居親族)」の3つのパターンがあり、それぞれに要件や注意点があります。
①配偶者
配偶者は原則無条件で居住用宅地の特例適用対象です(面積等の要件は別途あり)。
②同居親族
相続開始時に当該宅地に実態として居住しており、申告期限まで引き続き居住・保有していることが原則です。住民票の同一だけでは足りず、生活実態が重視されます。単身赴任等でも生活の本拠の実態で判断される場合があります。
③「家なき子」特例(別居親族)
被相続人に配偶者・同居親族がいない場合など、一定の厳格な要件を満たす別居親族でも居住用宅地に最大80%減額が適用可能です。主な要件は、相続開始前3年以内に自己・配偶者・3親等内親族等の所有家屋に居住していない/相続開始時点で自宅を所有していない/申告期限まで保有等。個別要件が複雑なため事前確認が必須です。
小規模宅地等の特例に必要な5つの添付書類
小規模宅地等の特例を利用するには、相続税申告書とあわせて複数の添付書類を提出する必要があります。 これは、対象となる土地や相続人の状況を税務署に正しく証明するためです。必要書類を揃えられないと特例の適用が認められないこともあるため、早めに準備しておくことが大切です。
最低限、次の5点セットを準備しましょう(ケースにより追加が必要になる場合があります)。
- 被相続人の相続人関係を示す書類(戸籍謄本一式または法定相続情報一覧図)
- 遺言書の写しまたは遺産分割協議書の写し
- 相続人全員の印鑑証明書(遺産分割協議書に押印した実印の証明)
- マイナンバー確認書類(マイナンバーカード、記載のある住民票等)
- 「小規模宅地等についての課税価格の計算明細書」(相続税申告書の別添)
※老人ホーム入所や「家なき子特例」の適用など、ケースによっては戸籍の附票、介護保険被保険者証や入所契約書、賃貸借契約書、登記事項証明書などの追加書類が必要になります。
これらの書類は、ひとつでも欠けると申告自体が受理されない恐れがあります。相続が発生したら速やかに役所や関係機関で取得を進め、期限内に揃えられるようスケジュールを立てておくことが安心です。
小規模宅地等の特例の申請のタイミング
相続税の申告と同時に手続きします。申告期限は「死亡(相続開始を知った日)の翌日から10か月以内」。たとえ特例で税額が0になっても、申告をしなければ特例は適用不可です。期限徒過には加算税・延滞税のリスクがあるため、余裕をもって準備しましょう。
期限までに分割がまとまらない場合
期限内に遺産分割協議が整わないケースでは、法定相続分でいったん申告し、「申告期限後3年以内の分割見込書」を添付する必要があります。その後、3年以内に遺産分割が成立した段階で、更正の請求を行うことで小規模宅地等の特例を適用するのが一般的な流れです。なお、取扱いは事案ごとに異なるため、必ず税理士など専門家に相談することをおすすめします。
相続発生から相続税申告書の提出までの大まかな流れ
相続が発生してから申告・納税までには、いくつかの重要なステップがあります。死亡届の提出から始まり、財産調査・遺産分割、そして相続税の申告・納付までを期限内に進める必要があるため、順序を理解して計画的に進めることが大切です。ここでは代表的な流れを時系列で確認していきましょう。
①死亡届の提出(7日以内)
被相続人が亡くなった場合、まず市区町村役場に死亡届を提出します。これは戸籍上の記録や各種手続きの前提となる重要な届出です。
②遺言書の確認(自筆証書は家庭裁判所の検認)
遺言書がある場合は、内容の有効性を確認するため、家庭裁判所で検認手続きを行います。これにより相続方法が正式に確定します。
③相続人の確定(戸籍収集/相続放棄は原則3か月以内の判断)
戸籍を取り寄せて法定相続人を確定します。相続放棄や限定承認を検討する場合は、3か月以内に家庭裁判所で手続きを行う必要があります。
④準確定申告(被相続人の所得税:死亡を知った日の翌日から4か月以内)
被相続人が亡くなった年の所得については、相続人が代表して所得税の確定申告を行います。期限は死亡を知った日の翌日から4か月以内です。
⑤相続財産の調査・評価(不動産・預貯金・有価証券・負債等)
不動産や金融資産、借入金など、プラスとマイナスの財産を漏れなく調査し、相続税評価額を算出します。
⑥遺産分割協議(遺産分割協議書の作成)
相続人全員で分割方法を話し合い、合意内容を遺産分割協議書にまとめます。これが登記や申告の添付書類になります。
⑦相続税の試算(小規模宅地等の特例の可否・最適配分の検討)
調査した財産額に基づき相続税額を試算します。小規模宅地等の特例を使えるか、どの宅地に適用すれば節税効果が大きいかを検討します。
⑧相続税申告書の作成・提出(10か月以内)
必要書類を揃えて申告書を作成し、税務署へ提出します。期限は相続開始を知った日の翌日から10か月以内です。
⑨相続税の納付(申告と同期限/延納・物納の要件検討)
計算された相続税を納付します。現金で一括納付が難しい場合は、要件を満たせば延納や物納も検討可能です。
小規模宅地等の特例は、相続人の生活や事業の継続を守るために欠かせない制度です。ただし、土地の種類や相続人の立場によって適用可否が異なり、書類や期限にも注意が必要です。自分のケースで使えるかどうかを早めに確認し、必要に応じて専門家へ相談することが、円滑な相続と節税への第一歩となります。
この記事の監修者

税理士
佐野理子
相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。