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現金を相続したら相続税はいくらかかる?計算手順と生前贈与のポイントも解説
2025/12/23 相続コラム

現金は、相続税評価額が「額面どおり」になりやすい財産です。不動産のように評価が下がりにくいため、遺産の構成によっては相続税負担が重く感じられます。とはいえ、相続税は“必ず”かかる税金ではなく、まずは「基礎控除」を超えるかどうかで、申告・納税の要否が決まります。
この記事では、現金を相続したときに相続税がかからない条件から、税額の計算手順(どこで何を引くのか)、さらに生前贈与での備え方まで、初めての方でも迷わない流れで解説します。
現金を相続する場合で相続税がかからないケースとは?
相続税がかかるかどうかは、「現金だけ」では判断できません。現金・預貯金・不動産・有価証券などを合算し、さらに一定の加算・控除を反映したうえで、正味の遺産額が基礎控除を超えるかで決まります。
つまり、現金を相続したとしても、遺産全体が基礎控除の範囲に収まっていれば相続税はかかりません(原則として申告も不要)。逆に、基礎控除をわずかに超えただけでも、超えた部分が課税対象になります。まずは「基礎控除」と「法定相続人の数」を正しく押さえるのが最短ルートです。
遺産の総額が基礎控除額以下
相続税がかからない代表例は、正味の遺産額が基礎控除額以下のケースです。ここでいう「正味の遺産額」は、遺産の合計から、非課税財産・債務(借入金など)・葬式費用を差し引き、必要があれば生前贈与の加算対象なども反映した金額を指します。
たとえば「現金が多い=必ず課税」ではなく、借入金が大きい、葬式費用がかかった、生命保険の非課税枠が使える等の事情で、結果的に基礎控除以内に収まることもあります。まずは“ざっくり”でいいので、財産と負債を洗い出し、基礎控除と比較してみるのが第一歩です。
相続税の基礎控除額
基礎控除額は、次の算式で計算します。
3,000万円+600万円×法定相続人の数
法定相続人の数が増えるほど基礎控除が増えるため、同じ遺産額でも「相続人の構成」で課税・非課税が分かれます。目安としては、法定相続人が1人なら3,600万円、2人なら4,200万円、3人なら4,800万円…というイメージです。
注意点は、相続の状況によって「法定相続人に誰を数えるか」が変わること。数え間違いは、基礎控除だけでなく税額全体のズレに直結します。戸籍で相続関係を確認し、養子のカウントや相続放棄の扱いなども含めて、慎重に確定させましょう。
現金にかかる相続税の計算手順
相続税は、ざっくり言うと「遺産総額×税率」ではありません。実務では、①遺産を集計 → ②基礎控除を引く → ③法定相続分で仮計算 → ④実際の分け方に配分という順番を踏みます。課税価格や基礎控除、法定相続分による税額計算という流れで示しています。
ここでは、あなたが「どの数字をどこに入れるか」を見失わないよう、各ステップの意味と注意点を丁寧に整理します。
遺産総額
まずは、相続や遺贈で取得した財産を金額に置き換えて集計します。現金・預貯金は残高(額面)が基本になり、株式・投資信託・不動産は相続税評価額で算定します。さらに見落とされやすいのが、死亡保険金や死亡退職金などの“みなし相続財産”、そして一定期間内の生前贈与がある場合の加算です。
一方で、遺産から差し引けるものもあります。代表は、被相続人の借入金・未払金などの債務、相続人が負担した葬式費用です。ここを丁寧に拾えるかで「課税対象」が変わるため、通帳・契約書・領収書など“証拠の束”を作る意識で進めるとミスが減ります。
課税遺産総額
次に、各人の課税価格を合計して正味の遺産額を出し、そこから基礎控除額を差し引いて課税遺産総額を求めます。基礎控除は先ほどの算式「3,000万円+600万円×法定相続人の数」です。
ここで課税遺産総額が「0以下」になれば、原則として相続税はかかりません(ただし、特例を使うために申告が必要になる場面は別途あります)。重要なのは、相続人の数え方を誤ると基礎控除がズレ、課税遺産総額が変わること。つまりこのステップは、“税額計算の入口”であると同時に、“課税か非課税かの分かれ道”でもあります。
相続税の総額
課税遺産総額が出たら、いきなり実際の分け方で計算しません。いったん、法定相続人が法定相続分どおりに取得したと仮定して相続税の総額を計算します。
各人の仮の税額は、「取得金額×税率−控除額」で求めます。税率は10%〜55%の累進で、たとえば「1,000万円以下は10%」「1,000万円超〜3,000万円以下は15%(控除50万円)」といった形です。
例として、課税遺産総額が4,000万円で相続人が配偶者と子2人なら、法定相続分は配偶者1/2、子は1/4ずつ。配偶者2,000万円、子1,000万円ずつに分けた上で仮税額を計算し、それらを合計して「相続税の総額」を作ります。ここまでが“土台”です。
相続人ごとの相続税額
最後に、算出した相続税の総額を、実際の遺産分割割合に応じて各相続人へ配分します。ここで初めて、遺産分割協議の内容(配偶者が多め、子が少なめ等)が反映されます。
そして、ここからが実務の肝で、各相続人にはそれぞれ適用できる控除・軽減があり、最終税額が大きく動くことがあります。代表例が配偶者の税負担を軽減する仕組みなどで、分け方次第で「同じ遺産でも納税額が変わる」ことが起こります。計算上はシンプルに見えても、手当てできる制度の有無で結果が変わるため、最終段階ほど“制度チェック”が重要になります。
現金の相続税を節約するには?
現金は便利ですが、相続の局面では“評価が下がりにくい”という性格を持ちます。そこで節税を考えるなら、(1)相続税計算上の控除・非課税枠を漏れなく使う、(2)生前のうちに「相続財産の総量」を減らす、(3)現金のままではなく別の形(生命保険など)に変換して非課税枠を取りに行く、という発想が基本になります。
ただし、節税は「やり方を間違えると否認される」領域でもあります。証拠が残らない贈与、名義だけ変えた預金、意図が透ける定期贈与などは、かえってリスクになります。安全に効かせるには、“制度を知る”だけでなく“運用の仕方”が大事です。
控除や特例の活用
まずは王道ですが、相続税の計算に織り込める控除・非課税の枠を取りこぼさないことが最優先です。基礎控除は全員に共通のスタートラインで、これを超えるかどうかで申告・納税の世界に入ります。
また、死亡保険金には「500万円×法定相続人の数」の非課税限度額があり、条件を満たすと課税対象を圧縮できます。
さらに、相続税の計算では生前贈与の加算ルール(相続開始前3年→段階的に7年)が絡むため、節税策は“いつ始めたか”が効いてきます。
結論としては、控除・特例は「知っているだけ」では足りず、適用要件と手続きを揃えて初めて効果が出ます。節税の前に、まず“使える制度の棚卸し”をして、使えるものを確実に取りに行きましょう。
教育費や生活費などの生前贈与
生前贈与の中でも、比較的トラブルが少なく実行しやすいのが、教育費・生活費を必要な都度、負担する形です。暦年贈与(年間110万円の基礎控除)を積み上げるよりも、目的と支出がはっきりしている分、説明がしやすいのが強みです。
ただしポイントは「都度」「必要な範囲」。まとめて渡して受贈者が貯金してしまうと、贈与として扱われやすくなり、税務上の説明が難しくなることがあります。支払先に直接振り込む、領収書を保管する、用途が追える口座を使うなど、“お金の使い道が追跡できる形”にすると安全性が上がります。節税は金額よりも、運用のきれいさが効きます。
生命保険の加入
現金対策として非常に使い勝手がよいのが、生命保険の活用です。被相続人が保険料を負担していて、相続人が死亡保険金を受け取る形であれば、死亡保険金は相続税の課税対象になり得る一方、「500万円×法定相続人の数」まで非課税という枠があります。
たとえば法定相続人が3人なら、合計1,500万円まで非課税枠が期待でき、現金をそのまま残すより課税対象を圧縮できる可能性があります。さらに、死亡保険金は「受取人固有の財産」として整理されることが多く、遺産分割の調整弁にもなります。
もちろん、保険には商品選び・受取人設定・保険料負担者の整合性など注意点があるので、契約前に“税務上の形”を確認するのが鉄則です。
現金を生前贈与する際のポイント
生前贈与は、やり方次第で効果が真逆になります。形式が弱いと「贈与ではなく、名義を借りただけ」「実質的には被相続人のお金」と判断され、相続財産に戻されるリスクがあります。加えて、暦年贈与には相続前一定期間の加算(3年→段階的に7年)というルールがあるため、計画が遅いほど節税効果が薄くなることもあります。
だからこそ、ポイントはシンプルに3つ。「合意を形にする」「お金の移動を記録する」「定期贈与に見えない運用にする」。この3点を押さえるだけで、否認リスクは大きく下げられます。
贈与契約書を作成する
贈与は口約束でも成立しますが、税務の世界では“言った・言わない”は通りません。贈与契約書があるだけで、贈与の意思と内容(誰が誰に、いつ、いくら、何のために)が明確になり、後日の説明力が段違いになります。
作り方は難しくありません。贈与者・受贈者の氏名、贈与日、贈与金額、支払方法(振込など)、署名押印が基本セットです。さらに安全にするなら、毎回の贈与ごとに契約書を作ること。まとめて一枚で「毎年〇月に〇円を10年」などと書くと、後述の定期贈与リスクを高めます。節税の強さより、“否認されない強さ”を優先しましょう。
口座振込で贈与する
現金手渡しは、証拠が残りにくく、最も揉めやすい渡し方です。贈与として通すなら、基本は口座振込。通帳・明細という客観記録が残り、「いつ・いくら・誰から誰へ」が説明できます。
さらに一歩進めるなら、振込名義や摘要欄に工夫をする、贈与契約書の日付と振込日を近づける、受贈者が自分で管理する口座に入れる、といった形で“受贈者が支配している”状態を作ると安定します。贈与は「移したつもり」では足りず、「相手が自由に使える状態に移った」ことが重要です。
定期的な贈与と誤解されないようにする
暦年贈与(年間110万円以内)を続ける節税は有名ですが、注意したいのが定期贈与(連年贈与)の誤認です。毎年同じ時期に同じ金額を贈与していると、「最初から総額〇〇円を分割で渡す約束だった」と見られ、結果として“実質一括贈与”扱いで課税されるリスクが高まります。
回避策は現実的に3つあります。①毎回、独立した贈与契約書を作る(総額や年数を固定しない)。②金額や時期を固定しすぎない(同額・同月を避ける)。③振込記録と契約書をセットで保管し、「その都度の意思決定」を示せるようにする。
さらに、相続直前の贈与は、相続税の課税価格に加算され得るルールが段階的に拡大している点も重要です(相続開始時期により、加算対象期間が3年〜7年)。
まとめ:現金相続は「基礎控除→手順どおり計算→対策は証拠重視」で迷わない
現金の相続税は、現金だけを切り出して計算するものではなく、遺産全体を集計し、基礎控除を引き、法定相続分で仮計算してから実際の分割に配分する流れで決まります。税率は「取得金額×税率−控除額」を使って算定します。
節税は、控除・非課税枠(生命保険金の非課税など)を取りこぼさないことが第一で、生命保険の非課税枠は「500万円×法定相続人の数」が基本です。
生前贈与は強い手段ですが、加算ルール(3年→段階的に7年)や定期贈与リスクがあるため、契約書と振込記録で“否認されない設計”にすることが、いちばんの近道です。
また、相続時精算課税制度(一定の要件あり)を活用すれば、7年以内の贈与であっても、年間110万円以内であれば加算ルールの適用はありませんので、こちらも一つの手段となります。
この記事の監修者

税理士
佐野理子
相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。

