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子どもがいない夫婦は相続にどう備える?ケース別解説と3つの対策法
2025/04/24 相続手続

目次
子どもがいない夫婦にとって、相続は意外と複雑になりがちです。配偶者以外にも兄弟姉妹や親が相続人となるケースがあり、意図しない相続トラブルが発生することもあります。この記事では、子どものいない夫婦に起こりうる相続の基本ルールや、実際のケース別に誰が相続人になるのかをわかりやすく解説し、さらにトラブルを避けるための具体的な生前対策についてもご紹介します。
遺産分割の基本
遺産分割は、亡くなった人の財産を相続人で分ける手続きのことです。まず、遺言書がある場合は、その内容が最優先されます。しかし遺言書がない場合には、民法に基づいて法定相続人が決まり、相続人全員で遺産分割協議を行います。法定相続人には、常に相続人となる配偶者と、血縁関係にある子どもや親、兄弟姉妹などが含まれます。また、民法は相続の目安となる法定相続分も定めていますが、相続人全員の合意があれば、その割合にとらわれず自由に分けることも可能です。
【ケース別に紹介】子どもがいない場合の相続は誰になる?
しかし、子どもがいない夫婦の場合、相続はどうなるのでしょうか?ここでは、子どもがいない夫婦の相続の3つのパターンをご紹介します。
被相続人の親(直系尊属)が亡くなっている / 被相続人には兄弟がいない
被相続人が亡くなったとき、その親(直系尊属)がすでに他界しており、かつ兄弟姉妹もいない場合、法定相続人となるのは配偶者のみです。民法では、配偶者は常に相続人とされ、その他の血族相続人は順位に応じて決まります。通常は子が第1順位、親が第2順位、兄弟姉妹が第3順位となりますが、すべての血族相続人がいない場合、配偶者が単独で相続することになります。
このケースでは、遺言書がない限り、配偶者が被相続人の遺産をすべて受け取る権利を持ち、他に協議を行う相続人も存在しないため、遺産分割協議も不要です。ただし、財産に借金や負債が含まれる場合は、相続放棄や限定承認といった選択肢を検討する必要があります。
被相続人の親(直系尊属)が亡くなっている / 被相続人に兄弟姉妹がいる
被相続人が亡くなり、すでにその親(直系尊属)が他界している場合でも、兄弟姉妹が存命であれば、その人たちが法定相続人となります。配偶者がいる場合は、配偶者と兄弟姉妹が共同で遺産を相続することになります。民法によれば、この場合の法定相続分は、配偶者が4分の3、兄弟姉妹全体で4分の1です。兄弟姉妹が複数いる場合は、その4分の1を人数で等分します。
また、兄弟姉妹がすでに亡くなっていても、その子ども(甥や姪)が代わって相続する代襲相続も認められています。なお、兄弟姉妹には「遺留分」が認められていないため、遺言書がある場合には、その内容が優先され、相続分が変更される可能性もあります。
被相続人の親(直系尊属)が存命
被相続人に子どもがいない場合で、その親(直系尊属)が存命中であれば、法定相続人は配偶者と親になります。民法では、配偶者は常に相続人となり、子どもがいない場合は第2順位として直系尊属が相続権を持つと定められています。
このケースでは、配偶者の法定相続分は3分の2、親の法定相続分は3分の1となります。直系尊属が複数人いる場合(たとえば父と母が共に健在)には、3分の1を人数で分けることになります。また、親の一方がすでに他界している場合には、もう一方がそのまま3分の1を相続します。
子どもがいない夫婦がすべき相続対策
たとえ今、家族や親族との関係が良好であっても、将来のトラブルを防ぐためには、相続に関する知識を身につけておき、早めに備えることが大切です。ここでは、子どものいない夫婦が取り組める具体的な生前の相続対策についてご紹介します。
遺言書を作る
子どもがいない夫婦にとって、遺言書の作成は非常に重要な相続対策のひとつです。遺言書があれば、相続財産の分け方を自分の意思で明確に指定でき、法定相続人の順位や割合に左右されずに配分を決められます。たとえば、すべての財産を配偶者に相続させたり、兄弟姉妹などに財産を残さないようにしたりすることも可能です。
また、相続人以外の人や団体に財産を引き継がせることもできます。遺言書があることで、遺産分割協議の必要がなくなり、相続人間のトラブルを未然に防ぐ効果もあります。ただし、遺言書は法的に有効な形式で作成されていなければ効力を持たないため、内容だけでなく形式にも注意が必要です。
配偶者に生前贈与をする
相続が発生する前に、財産を配偶者へ贈与しておくという方法も有効な相続対策のひとつです。とくに子どもがいない夫婦の場合、自宅などの大切な財産を確実に配偶者へ引き継がせるために、生前に贈与しておくことが検討されます。婚姻期間が20年以上の夫婦であれば、居住用不動産やそれを取得するための資金を贈与する際、「贈与税の配偶者控除」という特例が利用できます。
この特例では、基礎控除110万円に加えて最高2,000万円までが非課税となるため、合計2,110万円までの贈与であれば贈与税はかかりません。ただし、適用には一定の要件があるほか、居住用以外の財産を贈与する場合は通常どおり贈与税が課されるため注意が必要です。
生命保険の受取人を配偶者にしておく
子どもがいない夫婦にとって、生命保険を活用することは有効な相続対策のひとつです。生命保険は、被保険者が亡くなったときに受取人に直接支払われるため、原則として遺産分割の対象とはならず、配偶者が確実に保険金を受け取ることができます。受取人を配偶者に設定しておけば、他の相続人とトラブルになる心配も減らせます。
さらに、保険金には「500万円×法定相続人の人数」までの非課税枠があるため、相続税の節税効果も期待できます。ただし、相続人以外を受取人にした場合にはこの非課税枠は使えないので注意が必要です。また、遺言による相続で遺留分の争いが予想される場合にも、生命保険でまとまった現金を確保しておくことで、支払いに備えることができます。
子どもがいない夫婦の場合、相続は「配偶者だけが相続する」とは限りません。兄弟姉妹や親族が関わることで、想定外の相続トラブルに発展することもあります。しかし、あらかじめ知識を持ち、遺言書の作成や生前贈与、生命保険の活用などの対策を講じておくことで、大切な配偶者を守ることができます。将来への備えとして、できることから少しずつ始めてみましょう。
この記事の監修者

税理士
佐野理子
相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。