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家なき子特例とは?別居でも小規模宅地等の減額を受けられる相続税の優遇措置を徹底解説
2025/05/29 相続手続

目次
相続税は、多くの方にとって一生に何度も経験するものではありません。そのため、制度の仕組みや活用できる特例を見落としてしまうことも少なくありません。
なかでも「家なき子特例」は、被相続人と別居していた親族が相続する場合でも、一定の要件を満たすことで、通常の「小規模宅地等の特例」と同様に、土地の評価額を最大80%減額できるという大変有利な制度です。
この記事では、「家なき子特例」とはどのような制度か、利用するための条件、そして注意すべき改正点について、実務に役立つかたちでわかりやすく解説します。
「家なき子特例」とは何か?
「家なき子特例」とは、被相続人が居住していた土地を、同居していなかった親族が相続する場合であっても、「小規模宅地等の特例」に基づき、土地の評価額を80%引き下げて相続税を計算できる制度です。
「小規模宅地等の特例」との違い
通常、「小規模宅地等の特例」を使うためには、被相続人と同居していた親族がその自宅を相続し、かつ相続後も申告期限まで居住を継続する必要があります。しかし、仕事や家庭の事情で実家に住んでいなかった場合、たとえ実の子どもであってもこの特例を受けられないことが多くあります。
そこで導入されたのが「家なき子特例」です。これは、やむを得ず別居していた親族が相続した場合でも、相続税の過度な負担を抑えるために設けられた制度です。
「家なき子特例」の適用条件(平成30年改正前の3つの要件)
この特例を使うには、主に以下の3つの条件をすべて満たす必要があります。どれかひとつでも欠けると適用は認められません。
被相続人に配偶者または同居の親族がいないこと
相続開始時に、故人に配偶者(夫または妻)や、同じ家に住んでいた他の親族がいないことが前提です。
たとえば、すでに配偶者が他界しており、ひとり暮らしだった親が亡くなったケースや、二次相続(夫婦のうち残されたほうが亡くなった後の相続)で、同居していた親族がいなかった場合が該当します。
相続開始前3年以内に、相続人やその配偶者が持ち家を所有して住んでいないこと
この条件では、相続する人自身だけでなく、その配偶者の持ち家の有無も問われます。たとえば、夫名義のマンションに妻が住んでいた場合、その妻は自分の名義で家を持っていなくても、この特例は使えません。 逆に、賃貸マンションやアパートで暮らしていた方で、持ち家がまったくない世帯であれば要件を満たす可能性があります。
相続した土地を申告期限(相続開始から10ヶ月以内)まで保有していること
この特例は、あくまでも実家を承継し、生活の拠点として活用する人を対象としています。そのため、相続後すぐに売却してしまうと特例の対象外となります。
土地を相続した後、相続税の申告期限までは売却せず所有しておくことが必要です。売却を検討している場合は、申告タイミングを慎重に見極める必要があります。
平成30年の税制改正で適用条件が厳格化
制度創設当初は、正当に条件を満たしていれば柔軟に適用されていたこの特例ですが、一部で節税目的による「形式的な持ち家名義変更」などの抜け道的な利用が目立つようになったため、平成30年度の税制改正で条件が厳しく見直されました。
以下が、新たに追加された2つの要件です。
相続人が、相続開始前3年以内に三親等以内の親族または関連法人が所有する家に住んでいないこと
以前は、自分や配偶者以外が所有する家に住んでいれば問題ありませんでした。たとえば、叔父の家や親の持つアパート、勤務先の関連会社が持つ住宅などが該当します。
改正後は、こうした「身内」または「実質的に関係のある法人」が所有する物件に住んでいた場合も、特例は使えなくなりました。
現在住んでいる家を、過去に本人が所有していたことがないこと
例えば、以前は持ち家を所有していたが、相続の直前に不動産を売却して賃貸住宅に移り住んだとしても、「かつて持ち家があった」という履歴があれば特例の対象外となります。
節税目的の「名義変更」や「形式的な売却」を封じるための要件であり、制度本来の趣旨を守るための厳しいルールです。
経過措置により旧要件での適用が可能だったケース
この法改正には経過措置が設けられました。2018年(平成30年)3月31日以前に旧ルールの条件を満たしていた場合、2020年(平成32年)3月31日までに発生した相続については、旧要件に基づいた特例の適用が認められました。
この期間内に相続が発生したかどうかで、適用できるか否かが分かれる重要な判断基準となっていました。
「家なき子特例」の申請に必要な書類
この特例を利用するには、相続税の申告書に加えて、次の書類を添付して提出する必要があります。
戸籍の附票
相続人の過去の住所履歴を確認するための書類です。どの住所に住んでいたかが記録されており、「直近3年以内に持ち家に住んでいないかどうか」の証拠になります。
市区町村の役所で取得可能です。郵送でも請求できます。
賃貸借契約書の写し
相続人が実際に賃貸住宅に住んでいたことを証明するため、契約時の書類が必要です。紛失している場合は、不動産会社や管理会社に連絡して再発行を依頼しましょう。
家なき子特例の活用は慎重に判断を
「家なき子特例」は、被相続人と別居していた親族にとって、相続税を大幅に軽減できる非常に有利な制度です。しかし、年々条件が厳しくなっており、形式的に整えただけでは適用されません。
ポイントは以下の通りです。
- 同居していなかった親族でも適用できるが、5つの要件すべてを満たす必要がある
- 平成30年の法改正で、親族名義の家や過去の持ち家履歴もチェックされるようになった
- 要件確認には専門的な知識が求められるため、税理士への相談が強く推奨される
相続税は、知っているかどうかで数百万円単位の差が出ることも珍しくありません。「家なき子特例」に該当するかも?と思ったら、まずは信頼できる専門家に相談し、条件を一つひとつ確認していきましょう。
この記事の監修者

税理士
佐野理子
相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。