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山林の相続手続きとよくある問題|登記・相続税・売却・放棄の注意点と解決策
2025/06/26 相続手続

目次
山林の相続は、戸建てや農地とは異なる独特の手続きやリスクが伴います。「山林の相続登記のやり方は?」「市町村への届出って必要?」「相続放棄する場合は?」など疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。そこで本記事では、山林を相続したときに必要な手続き、メリット・デメリット、相続登記の問題点、相続放棄や売却の選択肢まで、わかりやすく解説します。失敗しない山林相続のために、ぜひ参考にしてください。
山林を相続したときに必要な手続きとは?【相続登記・届出の義務】
山林は不動産の一種であるため、相続が発生した場合、法務局で相続登記を行う必要があります。さらに、森林法の規定により市町村への届出も義務付けられています。これらを怠ると、後々の売却・活用の妨げになるばかりか、罰則や過料が科される可能性もあります。山林の相続では、まず以下の2つの手続きを確実に進めましょう。
山林の相続登記|必要書類・期限・費用を解説
山林を相続した際、まず行うべきは相続登記です。相続登記は、亡くなった方の名義のままになっている所有権を相続人に変更するための手続きです。2024年4月から相続登記は義務化され、相続を知った日から3年以内に登記しなければ過料が科される可能性があります。
必要書類は以下の通りです。
- 被相続人の出生から死亡までの戸籍謄本
- 被相続人の住民票除票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 相続人の住民票
- 固定資産税評価証明書
- 遺言書または遺産分割協議書(協議の場合は印鑑証明書も)
- 森林の土地の所有者届出書
- 山林の位置図
- 登記事項証明書(または遺産分割協議書)
登録免許税は固定資産税評価額の0.4%です。登記は自分でも可能ですが、書類集めや手続きの複雑さから、司法書士に依頼するのも一つの選択肢です。
山林を相続したら市町村への届出も必要|森林法に基づく90日以内の届出義務
森林法により、都道府県の地域森林計画の対象となる森林(山林)を相続した場合、所有者となった日から90日以内に市町村長へ届出が必要です。届出を怠ると、10万円以下の過料の対象となります。必要書類は以下の通りです。
届出義務の対象かどうかは、市町村や都道府県の林務担当課で確認が可能です。
山林を相続するメリット|収益化・資産活用の可能性
山林を相続する最大のメリットは、資産価値の活用可能性にあります。たとえば木材として価値のある立木があれば、伐採・販売により収益を得ることができます。また、近年では太陽光発電用地として活用する事例も増えています。さらに、森林環境税などの支援策により、管理次第で安定した資産運用ができる可能性もあります。立地条件が良ければ、レジャー施設やキャンプ場としての活用も視野に入ります。
山林を相続するデメリット|管理負担・売却困難・税負担に注意
一方で山林の相続には多くのデメリットもあります。まず管理の負担です。樹木の管理、倒木や土砂崩れ防止の対策など、専門知識や費用が必要です。また、山林は市街地の土地と異なり、すぐに売却先が見つかるものではありません。さらに、山林の場所や境界が不明確であることも多く、相続登記や売却を進める際に測量や境界確定のための追加費用が発生することがあります。
山林の相続登記でよくある3つの問題
山林の相続登記では、宅地や農地などの一般的な不動産にはあまり見られない、山林特有の問題が発生することが少なくありません。こうした問題を放置すると、登記手続きや売却、管理に大きな支障をきたす可能性があります。ここでは代表的な3つの問題について詳しく解説します。
土地の境界や位置が曖昧なケースが多い
山林の相続で最も多い問題の一つが、土地の境界や正確な位置が不明確であることです。山林は広大で人の出入りも少なく、長年にわたり測量や管理がされていないことが珍しくありません。特に、数十年前に作成された公図や古い地図では、現在の地形や隣地との位置関係と一致しないケースが多く見られます。さらに、地震や台風、大雨による土砂崩れなどの自然災害で地形が変わってしまうこともあり、境界確定は一層困難になります。
このような場合、売却や担保提供をする際には、正確な測量や境界確定の作業が必要です。これには隣地所有者の立ち会いや合意が必要になることもあり、測量費用や交渉の手間、時間が大きくかかることになります。早めに現地確認や専門家による調査を行うことが重要です。
登記されていないケースもあり
山林は、何代も前の先祖名義のまま登記が放置されていることが少なくありません。「売る予定がない」「特に利用価値を感じない」などの理由で、相続登記が行われないまま放置されてしまうのです。この場合、現所有者を特定するために、亡くなった方の戸籍をたどり、関係する全相続人を洗い出さなければなりません。さらに、その全員の同意を得て登記手続きを進める必要があり、膨大な時間と労力がかかります。
2024年4月からは、相続登記が義務化されたため、未登記のままにしておくと過料(罰金)のリスクもあります。相続人が増え、関係者が複雑化する前に、早期に名義変更を済ませることが大切です。放置することで次世代の相続人にさらに大きな負担を残してしまうことになります。
山林の売却が難しい
山林は宅地や市街地にある土地と比べ、売却のハードルが高い不動産です。特に都市部から遠く、交通の便が悪い山林は需要が低く、買い手がなかなか見つからないのが現実です。さらに、境界が不明確であったり、登記が未了だったりする場合は、取引自体が成立しにくくなります。買い手側もリスクを嫌い、契約に二の足を踏むからです。
売却を目指す場合は、山林専門の不動産業者や森林組合、地元の不動産会社、山林バンクなどの専門機関の協力を得ることが現実的です。また、売却価格は想定より大幅に下がることや、売却までに時間がかかることを念頭に置く必要があります。無償譲渡や寄付の選択肢も視野に入れ、早めに動き出すことが重要です。
山林を相続したくない場合の選択肢
山林は、メリットよりデメリットが大きいと感じる方も多いでしょう。相続したくない場合には、次のような対処法があります。
山林をほかの相続人に引き継いでもらう方法
山林の相続は、遺産分割協議でほかの相続人に取得してもらう方法があります。ただし、山林の維持管理や売却の難しさから、他の相続人も相続を希望しないケースが少なくありません。その場合は、山林以外の財産分割を調整するなどして、交渉が必要です。
山林を含む財産の相続放棄|手続き・期限・注意点
山林を含めた一切の財産を相続したくない場合は、家庭裁判所で相続放棄の手続きを取ることができます。相続放棄は、相続を知った日から3カ月以内に行う必要があります。注意点として、山林だけを放棄することはできず、すべての財産を放棄することになります。また、2023年4月の法改正以降、相続放棄後は現に占有している財産でなければ管理義務を負わないことになりましたが、占有している場合には一定の管理責任が残ります。
山林の相続は、メリットもある一方で多くの課題が伴います。境界不明や登記未了といった問題、管理や売却の難しさ、手続きの煩雑さがあり、軽い気持ちで相続すると後で大きな負担になる可能性もあります。山林を相続する際は、相続登記や市町村への届出などの義務を確実に果たし、必要であれば専門家の力を借りることが重要です。山林の価値や維持管理の負担を冷静に見極め、相続するか放棄するか、慎重に判断しましょう。
この記事の監修者

税理士
佐野理子
相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。