相続税の「事業用資産」とは?棚卸資産・機械設備・貸付金の評価方法
     

相続コラム

相続税の「事業用資産」とは?棚卸資産・機械設備・貸付金の評価方法

2025/08/29 相続手続

相続税の対象となる財産は、自宅や預貯金、不動産だけではありません。個人事業主や法人経営者にとって重要なのが「事業用資産」です。事業に使用していた資産も相続財産に含まれ、正しく評価して申告しなければなりません。

しかし事業用資産は種類が多岐にわたり、棚卸資産や機械設備などの動産から、貸付金債権といった金融資産まで含まれるため、評価方法を理解していないと税務調査で指摘を受けるリスクがあります。

本記事では、相続税における事業用資産の基本的な考え方、代表的な資産ごとの評価方法、注意すべきポイントをわかりやすく解説します。

事業用資産とは?

事業用資産とは、被相続人が営んでいた事業のために使用していた資産のことです。たとえば以下のようなものが該当します。

注意したいのは、一時的に事業で使ったにすぎない資産や、空き地・空き家など事実上利用されていない資産は「事業用資産」に含まれない点です。事業継続性や実態が重視されるため、相続税の申告にあたっては実際の利用状況を確認することが欠かせません。

棚卸資産の相続税評価方法

棚卸資産とは、販売を目的として仕入れた商品や、製造途中の仕掛品、製品などを指します。商店であれば在庫商品、製造業であれば原材料や完成品が該当します。

評価単位

棚卸資産は、種類・品質ごとにまとめて評価するのが原則です。例えば同じ型番の商品や、同じ品質の原材料はグループごとに評価を行います。

評価方法

相続税基本通達に基づき、以下の方法で評価されます。

個別法
個別管理が行われ、取得原価が明確な場合に用いられる。製造業の仕掛品や特注品などが典型例。

原価法
商品や原材料を取得原価ベースで評価。帳簿に記録された仕入価格や製造原価が基準となる。

販売予定価格から算出
販売予定価格から「適正利潤」「販売経費」「消費税」を控除して評価する方法。市場価格を反映しやすい点が特徴です。

適切に評価しないと、在庫を過小に見積もって税務署に否認されるリスクがあるため、棚卸の実態把握が重要です。

減価償却資産の相続税評価

機械装置、車両、工具、器具備品など、毎年減価償却を行っている資産は「残存価額」で評価されます。

評価方法の流れ
①購入価格(取得価額)を基準にする
②耐用年数に基づき減価償却費を計算する
③課税時期までに累計された償却費を控除する
④残りの価額(帳簿上の簿価)を相続税評価額とする

例えば、事業用車両の場合は中古車市場の価格を参考に評価することも可能です。パソコンやコピー機など耐用年数の短い資産は、相続時にはほとんど価値が残っていないケースも多く見られます。

付金債権の相続税評価方法

事業に関連する「貸付金」や「売掛金」も相続財産に含まれます。

評価方法

債権は「存在確認」が最も重要であり、取引先とのやり取りや契約書の有無を確認する必要があります。

その他の事業用資産について

事業の内容によっては、以下のような資産も対象となります。

知的財産権(特許権・商標権・著作権など)
将来の収益性を考慮し、権利の残存期間や使用状況を踏まえて評価。

のれん・営業権
事業が継続して利益を生み出すと認められる場合、その価値を資産計上します。評価は税務署との見解の相違が生じやすいため注意が必要です。

動産(家畜・農機具など)
農業・漁業などの事業では、家畜や農業機械も事業用資産として評価されます。

事業用財産の確認方法や注意点

事業用資産の相続税評価を行う際には、単に帳簿に載っている数字を申告すれば良いわけではありません。実際にその資産が事業に使われていたかどうかや、相続後も事業が継続されるかどうかといった実態の確認が不可欠です。ここでは申告にあたって特に注意すべきポイントを詳しく整理します。

事業継続の有無を明確にする

事業用資産の評価では、相続人がその事業を承継するかどうかが重要です。承継する場合には、相続税の納税が猶予・免除される「事業承継税制」の活用も検討できます。この制度を利用すれば、後継者が経営資源をそのまま維持できるため、納税資金に困るリスクを大幅に減らせます。ただし制度の要件は厳格で、株式や事業資産の保有継続要件などもあるため、専門家への相談が欠かせません。

帳簿・契約書・資産台帳の整備

税務署は、帳簿や契約書、減価償却資産台帳、在庫リストなどの「裏付け資料」を重視します。例えば、貸付金債権については契約書や返済履歴があるか、減価償却資産については購入時の請求書やリース契約書が揃っているか、といった点が確認されます。帳簿と現物の差異があると、税務調査で追及される可能性が高まります。

過小評価や過大評価のリスク

相続税の評価は「適正な時価」で行う必要があります。

特に棚卸資産は、在庫の実地調査を怠ると評価額に大きな差が生じることがあり注意が必要です。

相続人間のトラブルを防ぐ工夫

事業用資産は現金や預金と異なり、分割が難しいケースが多い資産です。例えば工場の機械や店舗の在庫を、相続人で均等に分けることは現実的ではありません。そのため、事前に「誰が事業を承継し、誰が代償金を受け取るのか」を話し合っておくことが円満な相続に直結します。遺言書や事業承継計画を残しておくことは、相続人間の不要なトラブルを防ぐ有効な手段となります。

事業用資産は、種類が多岐にわたり、評価方法も複雑です。棚卸資産、減価償却資産、債権、知的財産など、それぞれの性質を正しく理解した上で評価することが求められます。

特に個人事業主や中小企業経営者にとって、事業用資産は大きな割合を占めるケースが少なくありません。正確な評価を行うことは、適正な相続税の申告だけでなく、事業承継や相続人間のトラブル回避にも直結します。

相続税における事業用資産の評価は専門性が高いため、早めに税理士などの専門家へ相談することをおすすめします。

この記事の監修者

税理士 佐野理子

税理士
佐野理子

相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。

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