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デジタル遺産の相続手続きと注意点|暗号資産・電子マネー・NFTの扱いは?
2025/08/29 相続手続

目次
デジタル遺産とは、スマホやパソコンの中、インターネット上に残された財産やデータのことをいいます。たとえば、暗号資産や電子マネー、楽天ポイントやマイレージ、ネット銀行の口座、さらにはSNSやクラウドに保存された写真や動画も含まれます。
こうしたデジタル遺産は形がないため、現金や不動産のように目に見えて存在が分かるものではありません。そのため、いざ相続が発生したときに「家族が存在に気づけない」「手続き方法がわからない」といったトラブルが起きやすいのです。
この記事では、デジタル遺産の具体例・相続の流れ・注意すべきポイントをやさしく解説し、さらに生前からできる整理方法についても紹介します。身近な問題として、家族のためにもぜひ知っておきましょう。
デジタル遺産とは
「デジタル遺産」とは、故人が生前にデジタル形式で保有していた財産やデータを指す言葉です。現金や不動産のように目に見える形はありませんが、インターネット上に記録されている資産や情報が対象となります。たとえば、クレジットカードのポイントや、マイルといった電子的な価値も、実際には金銭と同等の性質を持つため遺産として扱われます。
注意すべき点は、「デジタル遺産」という概念に法律上の明確な定義は存在しないことです。一般的には財産的な価値を持つものを中心に指しますが、場合によっては思い出や記録としての価値を持つデータ(写真、動画、SNSの投稿など)も含めて広く使われることがあります。
民法896条では「被相続人の財産に属した一切の権利義務は、相続の対象となる」と規定されています。これは有形の財産だけでなく、無形であるデジタル遺産についても同様です。つまり、仮想通貨やネット証券の口座といった経済的資産はもちろん、電子マネー残高や有料サービスの利用権なども相続の対象となり得ます。
近年では、暗号資産やNFTアートなど新しいデジタル資産が急速に普及し、従来の相続では想定されていなかった問題が増えています。本人しかIDやパスワードを知らないケースも多く、存在が把握されないまま消失するリスクや、遺族が利用停止や名義変更を行えず困るケースも少なくありません。
デジタル遺産の具体例
デジタル遺産と一口にいっても、その範囲は非常に広く、多様な種類があります。ここでは代表的なものを具体的に紹介します。
暗号資産(仮想通貨)
ビットコイン(BTC)、イーサリアム(ETH)などに代表される暗号資産は、ブロックチェーン技術によって保管・取引される新しい形の資産です。 日本では金融庁の登録を受けた暗号資産交換業者(コインチェック、ビットフライヤーなど)を通じて取引されることが一般的で、急激な価格変動が大きな特徴です。
暗号資産は「秘密鍵」と呼ばれるアクセス情報がなければ動かすことができません。もしパスワードや秘密鍵が不明のまま相続を迎えると、数百万円単位の財産が事実上失われてしまう恐れがあります。そのため、暗号資産はもっともトラブルになりやすいデジタル遺産の一つといえます。
電子マネー
キャッシュレス化の普及に伴い、電子マネーの残高も重要なデジタル遺産です。
- QRコード決済系:PayPay、楽天ペイ、d払い など
- 交通系ICカード:Suica、PASMO、ICOCA など
- クレジットカード系:iD、QUICPay など
電子マネーは少額と思われがちですが、日常的に利用している方の中には数万円以上の残高があるケースも珍しくありません。スマートフォンの故障やログイン情報の喪失により、相続人が確認できなくなるリスクが高いため注意が必要です。
クレジットカードのポイント・マイレージ
クレジットカード利用に応じて貯まるポイントや、航空会社が提供するマイレージも財産的価値を持ちます。
- 楽天ポイント、Tポイント、Amazonポイント
- JALマイル、ANAマイル など
一部のポイントは「相続不可」と規約に定められていることもありますが、相続人による申請で引き継げるケースもあります。特にマイルや高額ポイントは旅行や商品交換で大きな価値を持つため、遺族が見落とさないようにする必要があります。
デジタルの著作物(著作権)
イラスト、音楽、映像、電子書籍、ブログ記事などのデジタルコンテンツは、著作権法により死後70年間保護されます。プロのクリエイターに限らず、個人でもYouTube動画や電子書籍から収益を得ている場合、その権利や収益は相続財産に含まれます。
- ブログ広告収入(Google AdSense など)
- Kindle電子書籍の印税
- 写真や音楽のライセンス料
これらは一見データに過ぎませんが、継続的な収益源となる場合、大きな財産的価値を持つデジタル遺産となります。
NFTアート
NFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)とは、ブロックチェーンを利用して「唯一無二のデジタルデータ」であることを証明する技術です。デジタルアート、ゲーム内アイテム、音楽データなどがNFT化されて取引されています。
NFTアートは制作者の知名度や市場の注目度によって高額取引されることも多く、数百万円以上の価値を持つ場合もあります。ただし、こちらも暗号資産と同様に「ウォレットの鍵情報」が不明だと引き継げないため、遺族が存在を知らず消滅するリスクがあります。
ネット銀行やネット証券の口座
住信SBIネット銀行、楽天銀行などのネット銀行、SBI証券、楽天証券などのネット証券も典型的なデジタル遺産です。これらは紙の通帳が存在せず、IDとパスワードを入力してオンラインで管理する仕組みのため、遺族が存在を把握できないまま放置されることが少なくありません。
残高が預金や株式・投資信託という形で保有されていても、ログイン情報がなければ相続手続きに進めないケースが多いため、特に整理が必要な遺産です。
サブスクリプション契約やオンラインサービス
意外と見落とされやすいのが、NetflixやAmazonプライム、Apple Musicといった月額制のサブスクリプションサービスです。これらは資産的価値を持つわけではありませんが、解約手続きをしなければ毎月利用料が発生し続けるため、遺族の金銭的負担となります。
また、オンラインゲームのアカウントやクラウドストレージ(Google Drive、iCloudなど)もデジタル遺産の一部として考える必要があります。
デジタル遺産の相続手続き
デジタル遺産の相続手続きは、基本的には通常の相続と同じ流れで進みます。ただし、資産の種類ごとに手続き窓口や必要書類が異なるため注意が必要です。特に暗号資産や電子マネーのように、本人のID・パスワードがわからなければ手続き自体が不可能となるケースもあります。
大まかな流れは以下のとおりです。
①遺言書の有無を確認する
②相続財産と相続人を確定する
③遺産分割協議(合意できなければ調停や審判)
④各財産の名義変更・払い戻し手続きを行う
⑤相続税の申告・納付
それぞれのステップについて詳しく解説します。
①遺言書の確認
まずは故人が遺言書を残していないか確認します。
- 公正証書遺言 → 公証役場で保管
- 自筆証書遺言 → 自宅や金庫、または法務局の「遺言書保管制度」で保管されている場合あり
遺言書にデジタル遺産に関する記載があれば、それが最優先で適用されます。たとえば「ビットコインウォレットを長男に相続させる」と明記されていれば、その指示に従って手続きを行います。
②相続財産および相続人の確定
次に行うのが「財産」と「相続人」の確定です。
相続財産の把握方法
- 故人のスマートフォンやPCに保存されているアプリやメールを確認
- クレジットカードの明細や銀行の入出金履歴から、利用中のサービスを洗い出す
- メールや通知で届く「利用案内」から電子マネー・サブスク契約を特定
相続人の確定方法
戸籍謄本を取り寄せて、法定相続人を確認します。家族関係が複雑な場合や判断が難しい場合は、弁護士に依頼するのが安全です。
③遺産分割協議・調停・審判
相続人全員で話し合い、デジタル遺産を含めた遺産分割方法を決めます。
- 協議が整った場合 → 「遺産分割協議書」を作成し、相続人全員が署名押印
- 協議が整わない場合 → 家庭裁判所に申し立てを行い、調停または審判に移行
特に暗号資産やNFTなどは価値の変動が大きいため、「評価額をいつの時点で算定するか」がトラブルのもとになりやすいです。
④遺産の名義変更
協議で分割方法が決まったら、実際に各資産の名義変更や解約・払い戻し手続きを行います。
- 暗号資産:取引所に死亡届・相続書類を提出し、相続人名義に移す
- 電子マネー・ポイント:各サービス会社の規約に基づき申請(相続不可と定める場合もあり)
- ネット銀行・証券口座:死亡診断書や戸籍謄本を提出し、払い戻しまたは名義変更
- サブスク契約:不要な契約は速やかに解約し、無駄な課金を防ぐ
デジタル資産はサービスごとに手続きが異なるため、利用規約を必ず確認することが重要です。
⑤相続税の申告や納付
相続税の申告期限は「相続開始を知った日の翌日から10か月以内」です。暗号資産や株式などは、相続発生日の時価で評価されます。特に暗号資産は日々価格が変動するため、正確な評価額を算定するには税理士のサポートが不可欠です。
相続財産が基礎控除額を超える場合(3000万円+600万円×法定相続人の数)、相続税の申告が必要となるため、早めに専門家へ相談しましょう。
デジタル遺産相続の注意点
デジタル遺産の相続は、現金や不動産といった形ある財産とは異なる特有の課題があります。特に注意すべき点は次の3つです。
- 相続人が存在を把握しにくい
- 手続きが確立していないケースがある
- デバイスの故障や消失リスクがある
それぞれについて詳しく解説します。
相続人による把握が難しい
デジタル遺産は「目に見えない財産」であるため、遺族が存在を特定するのは容易ではありません。 通帳や登記簿のような書面が存在せず、通知もメールやアプリ内にとどまることが多いため、相続人が気づかないまま放置されてしまうことがあります。 対策としては、生前のうちに利用中のサービスをリスト化しておくことが最も効果的です。最低限、アカウント名やサービス名を家族に伝えておくことで、遺産調査の手がかりになります。
手続きが確立されていない場合がある
デジタル遺産の相続は、従来の遺産に比べて制度が整っていないものも多く存在します。
国内取引所の暗号資産
→ 金融庁のルールに基づき、相続人への名義変更手続きが可能。
海外ウォレットの暗号資産
→ 各事業者の規約次第で、相続制度が存在しない場合もある。
ポイントやマイル
→ 楽天ポイントは「相続不可」と規約に明記、一方でANAやJALのマイルは相続可能。
このように、資産ごとに相続の可否や手続きが大きく異なるのがデジタル遺産の難しさです。事前に利用規約を確認し、必要に応じて「遺言書に記載する」あるいは「家族にログイン方法を共有しておく」など、早めの準備が欠かせません。
デバイスの故障やデータ消失リスク
デジタル遺産にアクセスするための情報(ID・パスワード、秘密鍵など)が、故人のスマートフォンやパソコンにしか保存されていないケースは非常に多く見られます。ところが、こうした端末が突然故障したり、初期化されたりすると、資産へアクセスする手段を永遠に失ってしまう可能性があります。
さらに注意すべきは、端末本体に保存されている写真や動画、オリジナルの創作データといった著作物です。これらは形のない大切な財産ですが、バックアップを取っていなければ、端末のトラブルによって一瞬で失われてしまいます。
こうしたリスクを防ぐには、いくつかの対策を組み合わせることが欠かせません。たとえば、外付けHDDやUSBメモリに定期的にコピーを残すこと、Google DriveやiCloudなどのクラウドサービスを活用することが有効です。さらに、ログイン情報についてはパスワード管理アプリを利用したり、エンディングノートに記録して家族が確認できるようにしておくと安心です。
デジタル遺産は、暗号資産や電子マネー、ポイントだけでなく、ネット銀行の口座や著作物、NFT、サブスクリプション契約など多岐にわたります。これらは相続人が気づかなければ存在しないのと同じであり、手続きも資産ごとに大きく異なるため、従来の遺産よりも複雑です。
そのため、利用サービスのリスト化やバックアップ、遺言書・エンディングノートの活用といった生前整理が非常に重要になります。万が一に備え、家族がスムーズに手続きを行えるよう、事前の準備を進めておくことが相続トラブルを防ぐ最大の対策です。
デジタル遺産について不安がある方は、早めに弁護士や税理士などの専門家へ相談し、自分と家族にとって最適な方法を検討してみてください。
この記事の監修者

税理士
佐野理子
相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。