銀行預金の遺産相続に期限はある?手続きを進めるために知っておくべきこと
     

相続コラム

銀行預金の遺産相続に期限はある?手続きを進めるために知っておくべきこと

2025/11/26 相続手続

銀行預金の相続は、相続手続きの中でももっとも多くの人が経験するテーマのひとつです。しかし「相続手続きはいつまでに終わらせればいいのか?」「期限を過ぎると引き出せなくなるのか?」といった疑問に対し、正確な情報を知っている人は多くありません。この記事では、相続の専門家が扱う実例や銀行の実務を踏まえ、銀行預金に関する“期限”の考え方をわかりやすく解説します。

銀行預金の相続には期限があるのか?まず知るべき基本ルール

銀行預金の相続手続きは、法律の仕組みと銀行内部の運用が複雑に絡み合うため、「期限がある」と思われたり「期限はない」と断言されたりと混乱しやすい分野です。まずは、この二つを切り分けて理解することが重要です。

銀行預金の相続手続きに“法律上の期限はない”という事実

銀行預金の相続には、法律上の明確な期限は存在しません。相続税のように「10か月以内」といった決まりもなく、「いついつまでに払い戻しをしなければ無効になる」というルールもありません。そのため、「急いで手続きしないと引き出せなくなる」といった誤解はよくありますが、法的には正しくありません。

ただし、手続きに期限がないからといって放置して良いわけではありません。銀行側でも規定はなくとも、相続人の人数が増えたり、書類が見つからなかったりすることで難易度が上がり、気づかないうちに「手続きが進まない状態」に陥ることがあります。特に、亡くなった人の親族関係が複雑だったり、疎遠な親族が多い場合には、時間とともに手続きの負担が増すことになります。
例えば、「父が亡くなって10年後に口座が出てきた」というケースでは、相続人のひとりがすでに亡くなり、その子ども(甥姪)が代襲相続人になっていたため、関係者が増えてしまい、口座解約だけで半年以上かかることもあります。

ただし放置すると“5年・10年”で休眠や時効の可能性が出る理由

法律上の期限はなくても、銀行預金を長期間放置した場合には“銀行の内部規定”が影響してきます。一般に、10年以上動きのない口座は「休眠預金」とみなされ、銀行の管理が難しくなります。また、未利用期間が長くなると、引き出しや解約の際に本人確認や追加書類の提出が強化され、手続きが大幅に複雑化します。

さらに、預金払い戻し請求には「時効」という考え方もあり、金融機関によっては5年〜10年で時効扱いとなることがあります(ただし、時効が成立しても相続人が申し出れば払い戻しが認められる場合が多い)。
実際の例として、ある銀行では「亡くなった祖父の預金が10年以上動かず、確認のために裁判所の書類が必要になった」というケースがありました。期限はなくても、放置すると“実務的な負担”が増える点には注意が必要です。

相続税や相続放棄など“関連手続きの期限”は厳格に存在する

銀行預金の相続手続きには期限がなくても、相続全体では厳格な期限が存在します。代表的なものが「相続税申告の期限(10か月以内)」と「相続放棄の期限(3か月以内)」です。この期限を過ぎると、不要な税金を払わなければならない、負債を相続してしまうなどの不利益が生じます。

例えば、被相続人に借金があった場合、相続放棄をしなければ借金も含めて相続することになります。「預金の名義変更は期限がないから」と油断していると、負債があるのに放置してしまい、3か月の相続放棄期限を過ぎて大きな不利益を被る例もあります。相続は全体の期限を理解しつつ、預金手続きを位置づけることが重要です。

銀行預金の相続が遅れると何が起きる?放置リスクを具体例で解説

期限がないとはいえ、銀行預金の相続手続きを後回しにすると、時間の経過とともにさまざまな問題が生じます。ここでは、実務でよくあるトラブルを具体例とともに見ていきます。

相続人が増え、話し合いが進まず手続きが困難になる

相続の手続きは「相続人全員の同意」が原則です。そのため、時間が経つと相続人が亡くなり、その子どもが「代襲相続人」として加わることで人数が増え、連絡が取れなくなるケースが増えます。
たとえば「祖父が亡くなり、10年後に預金が見つかった」ケースでは、祖父の子ども(つまり親)が亡くなっており、叔父や叔母、その子どもである従兄弟たちまで巻き込む必要が出ました。相続人が6人以上に増えると、書類作成だけで1〜2か月、連絡のやり取りでさらに数ヶ月かかることも珍しくありません。

休眠口座化・口座解約の難化で銀行手続きが複雑になる

10年以上動きのない口座は、銀行内部で「休眠口座」と扱われ、通常の相続手続きよりも手続きが複雑化します。休眠口座では、本人確認のために追加資料が必要になったり、銀行本部での審査が必要になったりと、通常よりも解約までの時間が長くなる傾向があります。

実際にあった例では、口座の記録が古すぎてシステムにデータが残っておらず、解約のために戸籍謄本一式と遺産分割協議書のほか、裁判所の「法定相続情報証明制度」の利用を求められたケースがあります。
期限はなくても、長期間放置することで「手続きが難しくなる」という現実的リスクがあるのです。

親族とのトラブルや“勝手な引き出し”による争いが発生

相続手続きが遅れると、親族間トラブルが増えます。とくに問題になるのが、「親族の誰かが勝手に口座から引き出していた」ケースです。法律上、相続が発生したら銀行預金は“相続人全員の共有財産”になります。勝手に引き出すと「不当利得返還請求」や「損害賠償請求」の対象になることもあります。

放置期間が長くなるほど、使途不明金が増え、「何に使ったのか」「本当に必要な支出だったのか」という争いに発展しやすくなります。手続きを早めに進めることは、家族間のトラブル防止にもつながります。

銀行預金の相続手続きの流れと必要書類

ここでは、銀行預金の相続手続きを初めてする人でも迷わないよう時系列での流れを整理します。銀行によって必要書類が異なる場合があるため、大まかな共通ルールとして理解しておくとスムーズです。

亡くなった人の口座を特定する:通帳・ネットバンク・キャッシュカード
まず行うべきは「口座を特定すること」です。通帳やキャッシュカードがある場合はすぐにわかりますが、最近はネット銀行やネット証券、スマホアプリで管理されているケースも多く「そもそもどこに口座があるか分からない」という相談が増えています。
郵便物やメール履歴を調べる、スマホアプリを確認する、家族に尋ねるなどして、複数の銀行口座を洗い出すことが必要です。

銀行に連絡し“口座凍結後”に必要な書類を提出する手順

死亡が銀行に伝わると口座は凍結され、出金ができなくなります。その後、銀行に「相続手続き依頼」を行い、必要書類を提出します。一般的な書類は以下の通りです。

銀行によっては「法定相続情報証明制度」を使うと手続きが簡略化できるため、書類を集める時間を短縮できます。

相続人全員の同意が必要な理由と、揉めずに進めるためのコツ

銀行預金の払い戻しには「相続人全員の同意」が必要です。これは、銀行が個別に判断できないためで、誰か1人が勝手に引き出すことを防ぐ仕組みです。
揉めずに進めるためには、早い段階で相続人が集まり、情報を共有することが重要です。「何にいくら使うのか」「いつまでに必要なのか」を明確にすることで、協議がスムーズに進みます。

銀行預金の相続手続きには、法律上の明確な期限はありません。しかし、期限がないからといって後回しにすると、相続人の増加や休眠口座化、必要書類の複雑化など、実務面で問題が増えていきます。また、相続税や相続放棄には厳しい期限があるため、預金だけをのんびり手続きしていると、思わぬ不利益を受けることもあります。

銀行預金の相続をスムーズに進めるためには、まず「どこにどの口座があるのか」を把握し、必要書類を早めに揃えることが第一歩です。家族間のトラブルを防ぐためにも、できれば生前のうちから口座情報や書類を整理し、相続に関する意思を明確にしておくと安心です。

大切なのは、「期限がない=急がなくてよい」ではなく「期限がないからこそ、早めに着手することでトラブルを避けられる」という視点。
適切な準備をしておくことで、家族の時間や気持ちの負担を大きく減らすことができます。

この記事の監修者

税理士 佐野理子

税理士
佐野理子

相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。

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