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子どもがいない夫婦の相続はどうなる?配偶者を守るための知識と対応方法をご紹介
2025/11/26 相続手続

子どもがいない夫婦の場合、相続は一般的に思われているよりも複雑です。「遺産は全部、残された配偶者に渡るのでは?」と思いがちですが、民法では“血族の相続人”が広く関わってくるため、想定していなかった親族が突然登場することも珍しくありません。
この記事では、子どもがいない夫婦に特有の相続の仕組みと、配偶者の生活を守るために必要な対策をわかりやすく解説します。
まず押さえておきたい相続の基本ルールと“誤解”
子どもがいない夫婦の相続で特に多いのが「遺産は全部配偶者が相続する」という誤解です。しかし現実には、民法では配偶者以外にも相続人になる血族が順位によって決まっています。第一順位は子ども、第二順位は親、第三順位は兄弟姉妹。子どもがいない場合は、親が存命であれば「配偶者+親」が相続人になり、親がすでに亡くなっている場合は「配偶者+兄弟姉妹」が相続人になります。
親族の構造が複雑な場合には、兄弟姉妹もすでに亡くなっていて、その子ども(甥・姪)が代わりに相続する「代襲相続」が発生することもあります。
たとえば、夫が亡くなり、夫の親はすでに他界。夫には兄がいたが、その兄も亡くなっている—この場合、兄の子どもである甥が相続に参加します。普段まったく付き合いのない親族が「法定相続人」として登場することもあり、残された配偶者はその事実を相続発生後に初めて知ることすらあります。
「子どもがいない夫婦=配偶者だけが相続する」というイメージは根強いですが、民法の仕組みでは決してそうはなりません。この誤解こそが、後々のトラブルにつながる大きな要因となります。
子どもがいない夫婦の相続で最も問題になりやすいポイント
相続人の範囲を理解したら、次に重要なのが“相続分(取り分)”の仕組みです。遺言書がない場合、自動的に法定相続分が適用されます。
子どもがいない夫婦で、親が生存している場合は「配偶者2/3:親1/3」、親がすでに亡くなっている場合は「配偶者3/4:兄弟姉妹1/4」という割合になります。
金額だけ見ると配偶者が多く取得するように見えますが、問題は“分けられない財産”、つまり不動産が中心の場合です。
配偶者3/4
たとえば、遺産の大半が自宅で、評価額3000万円だったとします。親が健在なら、親は1000万円分の権利を持つことになるため、配偶者がそのまま住み続けるには「権利を買い取る」か「売却して分ける」必要が出てきます。義両親との関係が良好でない場合や、親が高齢で判断能力が低下している場合、話し合いが進まないことも多く、最悪の場合、配偶者が自宅に住み続けられなくなる可能性もあります。
兄弟姉妹1/4
さらに厄介なのは、兄弟姉妹との相続です。兄弟姉妹が複数いると、1/4の持分を複数人で分けることになり、相続人が4人、5人と増えれば増えるほど協議が難航します。
「兄弟とはほぼ絶縁状態」「海外在住で連絡が取れない」「甥や姪が代理で要求してくる」といったケースも実際に多く報告されています。
不動産が共有名義になってしまうと、配偶者は住む場所があっても自由に売却・担保設定できず、生活設計が不安定になります。子どもがいない夫婦の相続で問題が起きやすいのは、まさにこの「不動産の共有」と「血族との関係性の希薄さ」が重なるためです。
配偶者の生活を守るために必要な準備と制度の活用
相続で配偶者を守るためには、生前からの準備が欠かせません。特に、子どもがいない夫婦にとっては「自宅に住み続けられるか」が最も大きな不安になります。
まず検討したいのが、2020年に新設された「配偶者居住権」です。これは、たとえ不動産の所有者が配偶者以外の相続人になったとしても、残された配偶者が“その家に住み続けられる権利”を確保する制度です。兄弟姉妹や甥姪が自宅の所有権を取得したとしても、配偶者は追い出されません。
遺産の大半が自宅で、現金が少ない家庭では特に効果を発揮します。
また、最も確実な対策は「遺言書」です。兄弟姉妹には遺留分(最低限の取り分)がありません。そのため、遺言書で「自宅は100%配偶者に相続させる」と指定しておけば、法定相続分に左右されず、自宅を丸ごと配偶者に残すことができます。
遺言書がない場合は自動的に法定相続分が適用され、配偶者の希望とは関係なく親族が権利を持つことになるため、遺言の有無で老後の安心感は大きく変わります。
さらに近年注目されているのが「家族信託」です。これは財産の管理を家族に任せる制度で、認知症などで判断能力が低下した場合でも、財産管理が止まらないというメリットがあります。子どもがいない夫婦では、どちらかが認知症になった時点で財産管理が進まなくなり、結果として相続対策ができなくなるリスクが高いため、家族信託は将来への備えとして有効な選択肢となります。
また、共有名義の自宅にも注意が必要です。夫婦で半分ずつ共有していると、亡くなった方の持分が兄弟姉妹に渡り、結果的に「配偶者50%+兄弟姉妹50%」という共有状態になってしまうことがあります。共有状態は売却や相続の場面でトラブルの原因になりやすいため、できるだけ早いうちに名義を整理しておくことが望まれます。
子どもがいない夫婦におすすめの“生前対策プラン”
子どもがいない夫婦の相続では、残された配偶者が安心して生活を続けられるよう、計画的な生前対策が不可欠です。ここでは、多くの家庭で実際に行われている3つのステップをご紹介します。
ステップ1:財産を整理し、状況を共有する
まずは、夫婦それぞれの財産状況を明確にすることから始めます。預金、保険、不動産、証券などを把握し、どちらかが認知症になっても困らないよう情報を整理しておくことで、家族信託や遺言作成へスムーズにつながります。
ステップ2:遺言書を作成する
子どもがいない夫婦にとって、遺言書はほぼ必須ともいえる対策です。自宅や預金をどのように配偶者へ渡すかを明確にすることで、兄弟姉妹や甥姪からの権利主張を防ぐことができます。特に、自宅を守りたい場合は「配偶者に100%相続させる」旨をしっかり明記しておくことが重要です。
ステップ3:配偶者居住権・家族信託・保険などを組み合わせる
遺言書に加え、配偶者居住権で住まいを守り、保険金で現金を確保しつつ、家族信託で認知症リスクを回避するなど、複数の制度を組み合わせることで万全な対策が可能になります。
財産が自宅中心の場合は“住まいの保全”、預金が少ない場合は“納税資金や生活費の確保”といった形で、家庭ごとの状況に合わせて対策を組み立てることが大切です。
子どもがいない夫婦の相続は、「配偶者だけが相続する」と思い込んでいると、実際に相続が起きたときに予想外の親族が登場し、トラブルに発展する可能性が高くなります。
配偶者の生活を守るためには、遺言書・配偶者居住権・家族信託・名義整理といった生前対策が欠かせません。
この記事の監修者

税理士
佐野理子
相続担当税理士として、お客様からのご相談をお受けさせていただいております。
これまで多くの相続税申告に携わってまいりました経験をもとに、相続人のみなさま方の立場に立ってご相談をお受けし、申告業務を進めさせていただきます。

